戦女神のなく頃に‐仇返し編‐1

まず、この物語のタネを知っている方へ
このような味付けになりましたが、如何でしょうか。

次に、ひぐらしのなく頃にを知っている方へ
推理はせずにお読み下さい。この物語に謎はありません。

最後に、何も知らないで読む方へ
まずは惨劇を探して下さい。次に悲劇を探して下さい。求めるのはその回避です。










    彼は彼女に謝った。
    救えなかった惨劇を。

    彼は彼女に謝った。
    救わなかった惨劇を。

    彼女は彼に謝った。
    救いのなかった惨劇を。


         Psychedelic Dreams




 …雨が降っているな、と思った。
 けれど不思議と冷たさは感じなくて、ただ水という異物が肌を滑り落ちる感覚があるだけだった。
 僕の手から流れ落ちる水の色は不自然だ。赤い。ひたすらに赤い。勿論雨が赤いわけはないから、これは別の何かの色が混ざった色なんだ。何だろう、と思って掌に目を向けると、いっぱいに赤い色が広がった。べったりと手に付いた赤。その赤はよく見るとちょっとだけ黒く濁っていて、鮮やかな赤じゃない。絵の具を間違えて塗ってしまった色でないことが不思議で、何の色だろうかと考えるために顔を上げて――視界に入った光景に、多分僕は叫んだのだと思う。
 後退りした足に何かが引っかかった。よく見るとそれは赤い色に染まった包丁。やがて壁に背がついてしまって、通りを見回した僕はそこで初めて気付く。
 人が、いないことに。
 僕以外の人が、いないことに。
 僕以外の生きている人が、いないことに。
 声が出て来ない。喉がからからに乾いていく。でも雨は降り続いている。僕とは違って外は水にまみれていた。手からは赤い色が流れ続けている。
「どう、して」
 からからの喉からやっとのことで僕は何かを口にした。何が起こっているのか、分からない。
 分からない。
 分からない、分からない。
 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。
 何故手が赤いのかが分からない。
 何故僕以外の人がいないのかがわからない。
 何故、目の前に人が倒れているのか…そう、人だ。誰?分からない。いや分かる。黒いファーコート。綺麗な顔立ち。こんな人他にいるものか…!
 そう、そうだ。僕はとっくに分かっているんだ。
「どう、して…」
 背を阻む壁が恨めしかった。
「臨也、さん…!」
 僕はこの人を知っている。
 そして、僕がこの人を殺した事実すら知っている。
 折原臨也。
 情報屋。
 いい人、だった。
「ごめんなさい…」
 僕はその場にしゃがみこんで、狂ったように呟き始める。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 そして思い出す。
 どうしてこんなことになったのか、その始まりを―――――





初っ端からすみません。いや、思い切り清々しいくらいに鬼隠し編のオマージュなんですが。
のんびりではありますが四編(鬼隠し・祟殺し・皆殺し・祭囃しって感じです)まで構想決まっているので、付き合える限りお付き合い頂ければと思います〜。
では!櫻井でした。