一方通行カタルシス

臨也君のプロフィールネタです
つまり爽やかにDVD四巻のネタバレです
八割が妄想で出来ています
ああ、いつものことだな
超展開を笑って流せる貴女向け
以上、宜しければ









 死んだ魚の目、という表現がある。
 いや、表現自体はどうでもよいのだ。自分が嫌いなのは死んだ魚の目、それそのものなのだから表現は問題ではない。問題なのはそれが目の前にあるという現実の方だ。どちらかというと。
「ねえ波江。それは嫌がらせ?」
「だって貴方、レトルトは嫌いなんでしょう?」
「うん、まあそれは確かにそうなんだけど…っ」
 確かにレトルトは嫌いだった。何せ人間の味がしない。世の中の人間はよくあんな機械的な味を好めるものだと感心する。あれなら料理が壊滅的に下手な人間の手作り料理の方が何倍も良い。むしろそういう料理は好きな部類だ。臨也にとって料理とは美味しい不味いで評価出来るものではなく、作った人間を観察する材料の一部だった。だから、味はどうあれ人間が作ったものは好きなのだ。
 しかし。しかしである。
 ――わざわざ俺の目の前で魚を捌くことはないんじゃないのか。
 臨也は部下が仕事机の前でその手に持った包丁を魚――臨也は別に人間以外の生き物に興味がないので種類までは分からない――の白い腹に滑らせる映像から意識的に視線を外しながら思う。口に出さないのは、それが嫌がらせであり、言ったところで状況に対する何の改善にもならないと判っているからだ。
 そんな臨也の様子を見た波江が、相変わらず感情のない事務的な声で言った。
「にしても意外よね。天下の折原臨也の平和島静雄以外に嫌いなものが、死んだ魚の目だなんて。」
「気持ち悪い。」
「女子高生みたいな理由ね。貴方の方が気持ち悪いわ。」
「というより、気味が悪いっていうのかな。」
 波江の皮肉をあっさりと無視しながら臨也は続ける。
「魚の目って瞼がないだろ?だからあいつらの目は死んでても生きててもあまり変わりがないんだよ。死んでるのか生きてるのか分からないなんて想像するだけで怖気が立つね。」
 言いながら想像してしまって深く息を吐く。食物として魚は好きだが、食べるなら切り身だ。焼いても尚目だけが変わらないなんて生き物としてどうかしている。もっともこれを新羅辺りに言うと、熱がかけられてタンパク質が凝固するから白濁しているじゃないかと言われるのだが、そういう問題ではない。目が開いて、眼球として認識出来るのが問題なのだ。気味の悪い。
 もう考えるのは止めよう。そう考えて臨也は軽く頭を振る。それが間違いだった。
「……え、」
 妙な動きが視界を掠めて動けなくなる。気付いた波江が呆れたように首を傾げた。
「何、少し見るだけでも嫌なの?」
「波江、さ。活け作りでも作ろうとしてるわけ?生きてるのを買ってきたとか?」
「は?何言ってるのよ。死んだのを買ってきたに決まっているでしょう。」
「…だよねえ。やっぱり見間違え…って、う、あ」
 今度こそ目を離せなくなる。
 びったん、ばったんとまな板の上で殆ど切り開かれた魚が尾をばたつかせていた。一瞬だなどと見間違えだなどと断ずることなど到底不可能だと嘲笑うように、ずっと。止まらない。びったん、ばったん、びったん、ばったん、ばったん。
 ――いや、いや、いや。
 臨也は頭の中で考える。
 例えば処理が中途半端だったとか、忘れていたとか。いやそもそもこれは波江が用意したものだ。彼女なら自分への意趣返しにやりかねない。そうだ、これは侮れない部下の悪戯に違いない。
 そう結論して、臨也は波江の名を呼びながら視線を正面に戻した。
「ねえ波江、冗談はいい加減に――」
 の、だが。
 ぴちゃん、と嫌な水音が耳朶に響いた。鼻につく鉄分の香り。目に飛び込む赤黒い色。脳裏を横切る陳腐な映画のストーリー。
 見覚えのある死人が、頭から血を流して鉈を振り上げているだなんて笑えない光景。
「――冗談。」
 からからに渇いた喉から掠れた声が出た。ちゃんと音になったかも分からない。
 臨也は死んだ魚の目が嫌いだ。あのギョロリとした生気のない目。生気がないのに変わらない目。
 臨也は死ぬのが怖い。それは死というものが生を絶対的に否定するものだからだ。天国を信じたい気持ちはあるが、それはあくまで願望であって臨也の考えではない。
 死と生は、分かたれているべきものなのだ。間なんてものが存在するわけがない。だから、死んだ魚の目が嫌いだった。間違いなく死んでいるのに、生と断絶されていない曖昧さが堪らなく嫌いだった。
 本当に、冗談だ。幽霊やリビングデッドなんて同時に死んで生きているような存在は有り得ない。有り得ないからこそ、嫌いも苦手もない。ホラーハウスもホラー映画もそう言って一笑に伏してきたというのに。
 臨也は全く動けない自分を自覚した。口も頭も動かない。ただ迫り来る危険を目だけが映し出している。
 風音。振り上げられた鉈が、一気に振りおろされた。


 ――や、
 遠くから声が聞こえる。
 ――ざや、
 ああ遂に自分も死んだのか、なら起こさないでくれと無視を決め込む。うるさいなあと思いながらその声を聞いていたのだが、肩を強く揺すられて一気に意識が浮上した。
「臨也ッ!」
 ぱちり。目を開けるとサングラス越しの目と目がぶつかった。ぶつかった瞬間に目に見えて相手の肩の力が抜けたので、どうやら心配させていたらしいことを知った。
「…どうしたの、シズちゃん。」
「魘されてた。」
「ああ、」
 ほう、と息を吐き出して緩やかに上体を起こす。自分の家ではない。そうか、昨日は久々に静雄の家に来ていたのだったか。
「悪夢でも見てたのかよ。」
「ちょっとね。子供が見るような怖い夢だよ。」
「怖い夢だあ?手前が?」
「苦手なんだ、得体の知れないものは。先が見えないものは怖い。」
 死は生を絶対的に否定するものだ。
 だから人は生き、臨也は死を恐れる。
 なのに、生と死を両立する存在が居たとしたら。それは、得体の知れないものだ。得体の知れないものは、全容が見えない怖さがある。暗い穴を覗き込んでいる気分になるのだ。それは死に向き合っている時と似ていて、段々と生の実感がなくなってくる。
「生と死は別種であるべきだよね。」
「興味ねえ。」
「言うと思った。ねえシズちゃん。」
 臨也は天敵の名を呼ぶ。
 奇妙な関係だ。天敵だということは変わらなくて、間違いなく嫌いなのに、こうして偶の逢瀬を繰り返したりする。どこまでも反対だからこそ、斥けたくもあり、逆にどうしようもなく必要にもなる。今回は後者だった。
「俺、ちゃんと生きてる?」
「今すぐに殺したいくらいにはな。」





どっかの超能力者が言っていた。
超展開への特効薬つ夢オチ
別にホラーが主旨ではないので…
我が家にしては珍しく静臨が付き合っている設定みたいです。嫌いベクトルと好きベクトルが等価な感じ。
死んだ魚の目からさらさらっと妄想でした。臨也君は人間の未知は大好きだけど、世界の理から外れた未知=幽霊とかは、全く信じていないが故に意外と苦手だったりしたら可愛い。