フロム・ランガージュ・トゥ・パトス6

静臨中心ですがオールキャラ
サヴァン設定と言いつつ解釈が相変わらず歪んでる
プラスαしただけで基本設定は原作通り
三巻直後くらい?
臨也君の世界が常人と違えばいいなって思っただけ
ただ櫻井が天才萌えなだけだぜ?
今回から第二部に入ります
以上オッケーな方









 春先の日はまだまだ短い。太陽が地平線に沈むと辺りはすぐに暗くなる。その様子は地球にとって太陽が如何に大切な存在であるかを思わせ、人間など及びもつかぬ大自然の力の大きさを垣間見させた。
 時刻は午後五時半。闇に沈んだ街が一斉にネオンサインで彩られ、閉店間際の店が最後の客の相手を漸く終えようという頃――唐突に、日常は一つの轟音によって掻き消された。
 銃声。後に言う「池袋銀行強盗事件」の始まりを告げた音である。


午後六時 池袋 某銀行

 中はしんと静まり返っていた。僅かに残っていた客と従業員はロビーに集められて黙り込んでおり、時折聞こえる犯人グループの声だけが空気を揺らしている。耳を澄ませると、外のざわめきが出来事の大きさを物語っていた。
 現状、人質は全員特に拘束をされることもなく無事である。しかし、犯人グループの持つ拳銃と、それが奏でた確かな発砲音は確実に彼らから反抗の意志を奪い去っていた。むしろこの状況で反抗しようという方が異常だと言えるだろう。それが可能なのは、テレビや小説の中の主人公に限られる。これは現実で、ここに居る人間は一般人に過ぎなかった。
「だから、逃走用の車を用意しろって言ってんだろうが!」
 突如として響いた叫びにびくりと空気が緊張する。犯人グループの一人の声だが、どうやら電話越しの相手に怒鳴っているらしい。
 カウンターの内側で電話をしていた男は、苛立った気を鎮めるようにゆっくりと息を吐くと、今度は落ち着いた低い声で電話の向こうへ語り掛ける。
「いいか、こっちには拳銃があるんだ。いつでも人質を殺すことが出来る。」
 チャカ、と男の手に握られた拳銃が急に動かされて金属音を上げた。銃口が自分達の方へ向けられたことに、息を呑む音がする。男は撃鉄に親指を掛けた危うい状態のまま、もう片方の手で受話器を握り直した。
「逃走用の車を用意しろ。……手配に時間が掛かる?なら、今日の20時までは待つ。それ以上待たせるようなら人質が1人何も言わなくなると思え。」
 ガチャリと受話器の置かれる音。一拍置いて、男の目出し帽の下の鋭い目が銃口を向けた先の人質達を睨んだ。永遠かと思われるような沈黙の後、徐に男が撃鉄から指を離し、銃を腰のホルダーへしまい込む。ほう、と息が吐かれたのも束の間、男の口から発せられる重低音がその場を支配した。
「20時までだ。」
 男がロビーの柱に掲げられた壁掛け時計を指し示す。
「20時までに向こうから連絡がなかった場合、この中の一人をこれで――」
 男がホルダーを軽く叩き、叩いた手で銃の形を作って眼前の人質達に向ける。
「撃ち殺す。」
 バン、とわざわざ恐怖を煽るように大きな声で効果音を付けて、引き金を引く仕草をして見せる男。人質達の恐怖に染まった顔をたっぷり楽しむように見回し、にいと口端を吊り上げて笑った。
「文句は俺達の指示に従わなかった警察に言うことだな。」
 どうやら先の電話の相手は警察だったようだ。男はそう言って店の奥へ行こうとしたが、気がついたと言ったふうに振り返ると語り掛ける。
「言うまでもないだろうが、妙な真似をしたらその時点であの世行きだからな。これを持っているのは俺だけじゃない。お前らの隣で目を光らせてる奴らだってちゃあんと持ってる。」
 わざとらしくとんとん、とんとんと銃のあるホルダーを叩く男。他の犯人グループの男も同じ様に腰の、恐らくはホルダーのあるであろう場所に手を掛ける仕草をして見せる。
 人質達が何も言えないのを見て取り、男が再び口を開いた。
「分かったら、」
「あの」
 そこで男の言葉は聞き慣れない、異様に爽やかな別の男の声によって遮られた。男が声のする方へ顔を向けると、そこには全身を黒い衣服で包んだ優男の姿があった。控え目に手を挙げたその姿はおよそ一般人以上の人間には見受けられない。ついでに言うのなら、犯人グループは知り合いの少ない場所としてこの池袋を選んだため、池袋という街のことを殆ど知らなかった。例えば手を挙げた男がもしバーテン服を着ていたとしても、服装の違和感以外は何とも感じなかったろう。
 故に彼は彼の一生を左右しかねない失態をこの時犯した。手を挙げたその優男に、発言を許してしまったことである。
「……何だ。」
「20時を超えて殺されるのは一人なんですよね?」
「それがどうした?」
「ですよね。一人でも警察には十分な効果があるし、一人殺すのとそれ以上じゃ量刑も変わります。」
「何が言いたい。」
 いまいち意図のはかりかねる男の言葉に、犯人の男が眉をしかめて尋ねる。男は顔いっぱいに懇願と慈悲を浮かべ、出し抜けに頭を下げた。
「僕が一人残ります。他の皆さんは解放して差し上げては頂けないでしょうか?」
「はあ?」
 人質の一人の思わぬ申し出に犯人の男は怪訝に目を眇め、そのピリピリとした空気に周りの人質達は身を硬くする。しかし構わず男は続けた。
「そうすれば、皆さんは自由になりますし、あなた方にしても途中で人質の一部を解放することは良い印象を与えると思いますよ?一人を殺すつもりなら、人質は一人で十分でしょう?」
「目的を言え。」
「目的だなんてとんでもない。僕はこの場に居る人達の利益になることを提案しているだけですよ。ご覧の通り僕は一般人です。なんなら身体検査して頂いても構わない。それに、もう既に金庫は開けた後でしょう?なら従業員の皆さんもこの場に居る必要はない筈です。」
 男の顔はあくまでも博愛に溢れているようにしか思われず、声は心からの懇願にしか聞こえない。
「僕が一人残れば、全て上手くいくんですよ?」
 ね?
 人質達も、犯人グループさえも誰一人として気付かぬ内に、その場の空気はたった一人の男に握られていた。





というわけで、第二部の開始になります。第二部は銀行強盗事件を主軸に、臨也君と静臨にもうちょって踏み込みたいと思ってます。
今回は始まりということで臨也君を完全に客観視点に置いています。一般人と天才の狭間を演出出来ていれば成功。これから徐々に臨也君自身の精神を掘り下げていくつもりなので、楽しみにしていて下さい。と私のハードルを上げる←
一部とは全く違うテイストになりますが宜しくお願いします!