フロム・ランガージュ・トゥ・パトス3

静臨中心ですがオールキャラ
サヴァン設定と言いつつ解釈が相変わらず歪んでる
プラスαしただけで基本設定は原作通り
三巻直後くらい?
臨也君の世界が常人と違えばいいなって思っただけ
ただ櫻井が天才萌えなだけだぜ?
清々しく帝人様のターン
以上オッケーな方









 竜ヶ峰 帝人は何の変哲もない少年である。卓越した頭脳を持っているわけでもない。化け物じみた力を持っているわけでもない。ましてや超能力の類を有しているということもないし、宇宙からやって来たスパイだなんて超設定にも縁はない。竜ヶ峰 帝人は何の変哲もない少年である。それは事実で、揺るぎない真実だった。
 但し、それを帝人自身が認めるかどうかとなると話は異なる。認めていたならば竜ヶ峰 帝人といういち高校生は普通の高校生として生涯を終えていただろう。しかし幸いにも、或いは不幸なことに、この少年は自分が普通であるという事実を認めていなかった。脚光を浴びない自分を認めていなかった。日常と圧倒的に隔絶された非日常を渇望していた。更に言えば、その非日常が目の前に現れた時に脇目も振らずに手にしようとする盲目さと無知さ、貪欲さも持っていた。
 何の変哲もない竜ヶ峰 帝人という少年が赤い目をした情報屋に会っているのも、つまりはそういう理由だった。

 偶然と言えば偶然だ。その日帝人が池袋東口に顔を出していたのも、臨也が池袋に来ていたのも、その臨也を帝人が目撃したのも偶然に過ぎない。しかし、目撃した臨也に帝人がアプローチを試みたのは極めて恣意的なことだった。例えばもしこれが彼の友人であるところの紀田正臣であれば、折原臨也に声を掛けようなどとする筈がないのだから。
 さて、そんなわけで現在、いち来良学園の生徒と裏社会の情報屋が仲良くファミレスで同席するなどという奇妙奇天烈な状況が生まれているのである。
「ごめんね、露西亜寿司でもご馳走出来れば良かったんだけど。」
 臨也がコーヒーを一口飲んでから先に口を開いた。
「シズちゃんの顔を1日に二度見るのは御免でね。居そうな店に行きたくなくてさ。」
「…もう、会われたんですか。」
「あれ?帝人君ってシズちゃんのこと知ってたっけ?」
「噂くらいは。臨也さんと仲が悪いって話は聞いてます。」
「まあね。だからさ、『汝、敵を知れ』ってね。あいつの行きそうな場所は大体記憶してるわけ。」
 ま、教えられる情報ではないけどね、などと悪戯めいた笑みを浮かべる臨也に対し、帝人は言い知れぬ心のざわつきを覚える。
 そもそも、何故帝人はこうも折原臨也という人間と接触を持とうとするのか。答えは簡単。帝人の目から見て、この赤い目をした情報屋が普通に映らないからだ。何かが決定的に帝人と違う。折原臨也はそう思わせる人間だった。
 だから、そんな臨也のちょっとした言葉や仕草に帝人は引っ掛かりを覚える。熱望し渇望している非日常への可能性をそこに見るからだ。故に口を開く。可能性を潰さないために。
「…臨也さんって、記憶力良さそうですけれど。例えば住所とか、どの位の人数を把握してるんですか?」
「さあ、数えたことないからなあ…でもまあ普通に千は超えてると思うよ。」
「………千って。」
「それ位じゃなきゃ情報屋なんてやってられないって。ああでも」
「でも、何かあるんですか?」
「一週間前会った子の顔と名前は昨日忘れた。」
「はあ?忘れたってどういうことです?」
 人間の記憶というものは不思議だ。覚えたいものほど忘れ、覚えていたくないことほど忘れられない。それは偏に、人間には記憶する方法はあっても忘れる方法はないからである。
 人間の記憶は二種類存在すると言われる。長期記憶と短期記憶と呼ばれ、何かを記憶したいならばこのどちらかに情報を蓄積すれば良い。短期記憶に効率良く蓄積する記憶術は世の中に氾濫しているし、それを長期記憶に昇華する方法も決して少なくない。どちらも一朝一夕で身に付くものではないが、それなりの訓練さえすれば誰にだって出来るようになる。無論だからと言って呼吸するように記憶力を活用する臨也の脳は尋常ではないのだが、しかし問題なのはむしろそれとは逆の行為の方だ。
 人間に物事を忘れる方法は普通なら存在しない。何故なら、忘却はあくまでも脳の誤作動であり、偶発的なものだからだ。それを人間の能力と表現する詩人も居るが、いずれにせよ脳にとって誤作動だということに変わりはない。だとすれば、忘却は本来わざと出来るものではない。
 筈、なのだが。
 臨也は帝人の疑問ににっこりと笑って答えた。
「言ってなかったっけ?俺、昔から自分の記憶を自由に操作出来るんだよね。覚えたり忘れたり。問題は忘れたものを思い出せないことかな。ほら、パソコンのデータだって入れたり消したり出来るけど消したら復元出来ないだろう?あれと同じで。」
「…信じられない、話ですね。」
「あはは、顔が笑ってる。」
 臨也に指摘され、帝人はハッと息を呑む。
 臨也の言葉は正しかった。帝人は先ほど自分の垣間見た可能性が真実だったことに半ば感動に近い感情を抱いていたのだ。普通ではない存在が、事象が、目の前にある。或いは、居る。これに喜ばずに一体何に喜べと言うのか。
「でも、満足はしてないね。」
「え、」
「『何故自分じゃないのか。』そういう顔してる。」
 臨也の言葉はいつも的確だ。どんなに隠そうとしても核心を突いてくる。それが常に他人を谷底へ突き落としてきたのだが、帝人はその事実を知らない。だから純粋に驚き、羨望する。羨望し、嫉妬する。
「…評価、してるだけです。」
「怖いなあ。何時君が俺のことを食いにくるのか。」
「怖いって顔じゃないですよ?」
「嘘じゃないさ。ただ恐怖と待望が同時にあるだけだよ。怖いけれど、楽しみでもある。」
「とんだマゾヒストですね。」
「被虐趣味とは違うと言っておこう。俺はただ純粋に人間の全てに興味があって、人間の全てを愛しているだけだから。」
「美徳も悪徳も平等に?」
「君のような人間もね。」
 臨也の表情はどこまでも邪気がない。帝人はそれを見て、やはり折原臨也という人間は圧倒的におかしいが良い人、という結論に到達する。
 それは臨也が帝人の持つ非日常への羨望、嫉妬、憧憬を全て分かった上で帝人の満足いくような言葉を選んでいるが故なのだが、この時点の帝人にはそれに気付く視野の広さはなかった。自分が非日常の一部であると言われたように錯覚し、その幸福が嫉妬や羨望を塗り潰す。そして自分のそんな感情の動きに気付かない振りをして謙遜の言葉を口にしさえする。
「僕は普通の中学生ですから。」
「君がそう言うならそういうことにしておこう。」
 臨也はそう言って話を切り上げ、残りのコーヒーを飲み干した。伝票を持って立ち上がる。
「じゃあ俺はそろそろこれで。」
「僕だってファミレスの支払い位ならありますよ。」
「可愛い来良の後輩へのサービスさ、有り難く受け取っておくと良い。」
「…なら、御言葉に甘えて。」
「じゃあね、また。」
 ひらりと手を振って軽い足取りでその場を後にした帝人は心の中で呟いた。
 ――やっぱり臨也さんは良い人だ。
 但し、その言葉の前に「自分を満足させる」という接頭語が付くことに帝人が気付くのは、もう少し後の話である。
 窓の外を見ると、夕焼けの濃い赤が明るい世界の終わりを告げようとしていた。





長くなったので杏里編は次に続く。ごめんなさい。帝人の臨也君観複雑過ぎる。シズちゃんはシンプル過ぎて書きにくかったのですが帝人は帝人で…もう。
三巻直後なのでまだ覚醒前且つ臨也君を良い人だと思ってるけど、深層心理じゃこんなもんだよと。
作中に名前は出しませんでしたが、帝人の思考回路は凄くパラノイアを意識して書きました。気になる方はうぃっき様で検索してみて下さい!