フロム・ランガージュ・トゥ・パトス1

静臨中心ですがオールキャラ
サヴァン設定と言いつつ解釈が相変わらず歪んでる
プラスαしただけで基本設定は原作通り
三巻直後くらい?
臨也君の世界が常人と違えばいいなって思っただけ
ただ櫻井が天才萌えなだけだぜ?
以上オッケーな方









サヴァン症候群
知的障害や自閉性障害のある者のうち、ごく特定の分野に限って、常人には及びもつかない能力を発揮する者の症状を指す。語源となった「savant」は、フランス語で「賢人」の意味である。――Wikipedia

「つまり、簡単に言うと天才のことね。」
『知的障害や自閉性障害の人間が?』
「いや、そこは問題じゃないんだよ、セルティ。」
 池袋、某高級マンション最上階。闇医者の岸谷新羅と首無しライダーのセルティ・ストゥルルソンはパソコンの画面を見ながら会話していた。画面に映し出されているのは、ある掲示板だ。セルティがネットサーフィンをしていて見つけたページだったが、そこに見慣れない、けれどどうやら医学用語らしい言葉を見つけ、新羅に教えを乞うたのだった。
 疑問を投げかけたセルティに僅かに首を振り、新羅が言葉を続ける。
「まあこれは若干僕の仮説も入っているんだが――逆なんだよ。知的障害や自閉性障害を持っているにも関わらず、能力が高いんじゃない。あまりにも知能が高すぎて、おかしくなった。それにサヴァン症候群という名前を付けただけさ。その証拠に、世に名だたる天才と呼ばれる偉人はその殆どが社会不適応者だったと言われている。」
 「サヴァン症候群」――それが、その掲示板に書かれていた言葉だった。あまり有名な言葉ではないが、近年では徐々に小説などの媒体で取り上げられるようになってきている。
 厳密なことを言えば、「サヴァン症候群」と「天才」にはやや違いがある。広義の「サヴァン症候群」の中のほんの一握りに、「天才」とまで評しうる才能の持ち主が居るというのが正しい。「天才」がある種の精神的ハンデを持つということに関しては、『アルジャーノンに花束を』という作品が想起されるだろう。
 本来精神科用語である「サヴァン症候群」という言葉は、外科が専門の新羅からしてみればやや畑違いなところもあるのだが、それでも知っていたのは、新羅自身が精神科に若干の興味があったことと、もう一つ。新羅の周囲にも原因があったりする。
『社会不適応者って、新羅みたいなか?』
「ちょ、セルティそれは酷くないかい?いやまあ確かに世間様に顔向け出来る生活してないのは分かってるけど…。でも、私はこれでも普通なつもりだよ?それよりさ、もっと相応しい人間がいるじゃないか。」
 新羅はそこで一旦言葉を切って、視線をパソコン画面からセルティの方へ向けた。
「実は、天才って一種の劣性遺伝だとも言われていてね。ほら、思い出してごらんよセルティ。」
 徐に新羅が自身の目を指で示す。日本人に一般的な黒い瞳だ。黒色は優性遺伝子だと言われており、日本人の血が混じっていれば普通は黒い瞳に生まれる。
 新羅の周囲には、一人だけ。日本人なのに瞳が黒くない人間がいた。
「臨也の赤い目。多分あれ、劣性遺伝だと思うんだ。」

「今目の前にある棚の上から三番目、右から四番目の引き出しに入ってる書類をまとめて、その右の右の引き出しの中に入ってる一番上の封筒に入れて今日中に出しといて。あと本棚の真ん中の段、左から六番目の『全体主義研究』ってハードカバー本の103ページに挟んである青いメモは『ウェストサイド・ファイナンシャル・サポート』の寒川社長に読んだら焼却処分する旨を添えて一緒に送っちゃって。それと奈倉アカウントのメールボックスに三日前に渋谷で会った木下って女の子からメールが来てるからお断りの返信。そこまで終わったら机の上のチェス盤、白のナイトをf4に置いたらチェックメイトだから動かしといてね。」
 新宿、某高級マンション。雇い主の折原臨也からの矢継ぎ早の指示にも少しも顔色を変えず、矢霧波江は危なげなく仕事を全てこなした。チェスの駒が置かれるコツリという音と共に口を開く。
「『全体主義研究』って…どれだけ悪趣味なのよ、貴方。」
「そう?あれはあれで人間の本質をなかなかよく突いてると思うけどねえ。」
「しかも103ページ。よくヒトラーの演説のページなんかに挟む気になるわね。」
「さっすが。記憶力いいよね、波江さん。」
「貴方に言われると馬鹿にされている気分になるわ。」
 臨也の賛辞に無表情で答え、波江は休憩のコーヒーを淹れる為キッチンへ向かった。
 臨也と会話するのは疲れる。それは臨也の性格が破綻しているからというのもあるが、それ以上に頭を使うのだ。
 臨也の言うように、波江自身、頭が悪いとは思っていない。むしろどちらかと言えばよい方だろう。しかしそれは一般的基準に沿ってでの話であって、臨也のそれは次元が違うのである。例えば今だって、言われたことを瞬間的一時的に記憶するくらい、少し訓練してやれば誰だって出来る。しかし、何ヶ月も前の自分が何をどこに置き、その中で今何が必要かを、それもろくに場所を見もせずに正確に言う自信は波江にはない。
 波江は折原臨也という人間を信用はしているが、信頼はしていない。だから、上司と部下という関係とは言え出来る限り弱みは見せたくないし、対等な立場を保ちたい。故に臨也との会話には頭を使う。そんなことをしたからと言って同じ景色を見られるとは思っていないが、出来る限りその振りはしていたいと考えている。でなければあのいけ好かない化け物に食われて終わりだ。
「本当、どんな頭してんのかしら、あいつ。」
 コポコポと音を立ててインスタントコーヒーを淹れながら、波江が一人ごちる。と、リビングの方から雇い主の声が聞こえた。
「波江さーん、俺池袋行って来るからさあ。コーヒー飲んだら今日上がりでいいよ。」
「……喜んで帰らせて貰うわ。」
 言うが早いかマンションを出て行った臨也に届いたかは分からないがそう答え、波江はコーヒーカップを持ってリビングに戻った。
 主の居なくなった、整然と整理された部屋。
「どんなに自販機投げられても会いにいく辺りは、健気な奴よね。」
 興味なさげに呟くと、波江は淹れたばかりのコーヒーを喉に流し込んだ。




多分続く。
というかシズちゃんのターンが次回に見送られましたごめんなさい。
臨也君の長台詞の本の名前と会社の名前は爽やかに適当です。
因みに『アルジャーノン〜』は実在しますが読んだことはない。読んだ人の感想なら聞いたことあるんですが。