普通になりたい、とか。思ったことがないと言えば、それは嘘になる。俺という人間でも、普通になれば人間から愛してもらうことが出来るのではないか、と。
　ただ俺はそう思う一方で、それが俺には到底不可能なことだと言うことも分かっていた。
　不思議に思う人があるかも知れない。俺が普通でないのはあくまで言動や行動であって、それは変えようと思えば幾らでも変え得るものではないのかと。
　断っておかなければならない。
　俺は、人間が好きだ。愛している。
　だから、人間のことを深く知りたい。
　それだけなのだ。
　俺の周りの人間は、俺がすることをいつだって卑怯だと罵る。そして、それはどこまでも正しい評価だと俺は分かっている。しかし、それが俺の愛し方だ。愛する者を深く知りたいだけだ。ただ知るだけでは俺には足りない。悲嘆に歪んだ顔が見たい。絶望に沈んだ声が聴きたい。放っといても得られないその人間の姿を、俺はだから自分の手で作り出す。そのやり方は、どこまでも卑怯で醜悪だろう。人間が俺を嫌いになるのも無理はない。
　人間を愛するか、愛されるか。
　その実に簡単なニ択問題を出された時、俺は有り体に言えばーー諦めた。
　愛せないくらいなら、愛されないなどなんということもない。普通になって愛せないなら、狂っているままで俺は人間を愛したかった。
　もとより、普通になるなんてことは。俺には無理な話だったのだ。最初から。
　そう、無理な話なのだと。
　思っていたのに。