「リリアサ」予告編

 事件NO.  AP0057175561-C234138
 事件呼称 ジュエルシード事件
 担当   古代遺失物管理部 機動六課
 捜査主任 アルフレッド・F・ジョーンズ
    執務官  アーサー・カークランド
 尚、本件は秘匿事項Aランク相当に該当するものとする。閲覧には三佐以上の階級による許可申請を要する。
 これから語るのは、ある終わった事件の話である。たった二人の魔導師が起こした事件の記録に過ぎない。故に、事件になんの関係もない貴方が読んでも面白くないかも知れない。そのことをまず伝えておきたい。
 繰り返すが、この記録は終わった事件の記録である。所詮過去。結末の決まった物語でしかなく、その結末に向かってただ終わっていくだけの話である。
 それでも、読みたいというのなら。語ろう、この他愛もない事件のあらましを。
 たった二人の魔導師の、出会いの物語を。


魔法使いリリカルアーサー 準備編


 ロストロギア、ジュエルシード。
 それは、世界を破壊しかねぬ圧倒的な「力」の結晶。
 始まりは、そんな21個の欠片だった。

「狙っている人間がいるんだ。」
 アルフレッドが言った。それまでのどこか弛緩した表情をようやく引き締め、静かな声で現状を淡々と説明する。
「フランシスが言ったように、アーサーは一ヶ月でたった四つしか確保できなかった。それは何も彼の探知が不十分だったわけでも、彼の能力が不足しているからでもない。彼が確保する前に確保している人間がいるからだ。」
「知っての通り。」
 アルフレッドの言葉を受けて、アーサーがモニターに映し出されたジュエルシードを見つめながらその先を続けた。
「ジュエルシード…もといロストロギアは危険な代物だ。使い方によっては次元世界を破壊しかねないし、そうでなくとも町の一つや二つ、簡単に消し飛ばせる。この意味が分かるな?ロストロギアは兵器と何も変わらない…それが、どこの誰とも分からない人間に回収されている。」
「恐らく、魔導師やろな。」
 ずっと黙っていきいているだけだったアントーニョが、彼にしては珍しく神妙な顔つきで口を挟む。頷いて、彼の肩に座っていたロヴィーノも言った。
「それもかなり高位の、な。最初にジュエルシードをばらまかせたのも…」
「同じ魔導師でしょう。ですよね?」
 セーシェルの言葉にアーサーも同意を示す。
「ああ。最初の攻撃が次元跳躍していたことを考えると、一人だろうが複数だろうが警戒すべきには違いねえ。アルフレッド。」
「うん。」
 アーサーの呼びかけにアルフレッドが応じる。その場の全員――アーサー・セーシェル・フランシス・アントーニョ・ロヴィーノ・そしてマシューの顔を順番に見回し、宣言した。
「俺たちの任務はこの第一級犯罪者の確保だ。全員、心してかかってくれ!」

 やがて二人は出会う。
 追うものと、追われるもの。
 邂逅は、鮮やかに晴れたある日のこと。

「おや、管理局の方ではないですか。」
 アーサーの登場に、その男は感情のない声でそう言った。焦りはない。その黒々とした瞳に浮かぶ静けさが、男の実力を物語っているようだった。
 アーサーは手にしたデバイスを構えなおし、慎重に距離をとる。
「時空管理局執務官、アーサー・カークランド。」
「私を捕らえに?」
「抵抗しなければ、お前には弁護の機会が与えられる。」
 アーサーの言葉に、しかし男はくすりと笑っただけだった。
「要りませんよ、そんなもの。」
「――そうか。」
「ええ。――バルディッシュ。」
 《Get set》
 男の声に、その手にされたデバイスが短く応答する。男が鎌にその形を変えたデバイスをアーサーへとまっすぐに向けた。そこではっと思いついたように目を少し見開き、やはり声のトーンは変えないままに言う。
「自己紹介をしていませんでしたね。」
 流れる緊張。男は自分の周りに魔力弾の発射体――ランサーを生成させながら、自分の名を告げた。
「我が名は本田 菊。故あって、ジュエルシードを集めています。以後見知りおきを。」

   そして、物語は。
 出会いを境に、動き出す。
 間談なく――急速に。

「十年前の資料?」
 突然の要請に、ローデリヒは僅かに怪訝な表情を見せた。
「貴方の弟の事件ですか?」
「ああ。」
 対するギルベルトは、眉一つ動かさずにローデリヒと向き合っている。その顔にはどことなく焦燥の色が見え隠れしていた。いらいらとローデリヒとの間に横たわる机を指で叩き、言い募る。
「秘匿事項Sランク相当。お前の許可がないと閲覧出来ねえ。」
「…構いませんが、理由は。」
「言う必要があるのかよ。」
「直属の部下とはいえ、Sランクの許可を易々と与えるほど私は甘くありませんよ。分かっているでしょう。」
 ローデリヒの凛と突き放す物言いにギルベルトが小さく舌打ちする。数秒無言でにらみ合いを続けていたが――先に折れたのは、ギルベルトの方だった。
「さっき、フランシスの奴から緊急通信が入った。」
 ぎりと歯ぎしりすら滲ませて。ギルベルトが言う。
「見つかったっていうんだよ、あいつ――しかも、なあ。信じられるか?」
 だん、と強く机を叩く声が響きわたった。
「敵だっていうんだよ、あいつが!俺の弟が!!」

 これは、ある事件の物語。
 これは、ある出会いの物語。
 これは――ある、歴史のひと欠片。

「本田、菊ね。」
 男ーー菊の名前を数度口の中で繰り返した後、アーサーは自身も、自身の魔力弾の発射体――シューターを発生させる。にいと笑った。
「よし、覚えた。」
「光栄です。」
「では、本田 菊。」
 アーサーが顔を引き締めた。にらみ合う。ばちばち、と互いの魔力弾が今にも発射しようと不穏な音を響かせた。
 天気は――快晴。
「何か。」
「お前を、時空管理局法違反による第一級犯罪者として逮捕する。――ディバイン、」

 これは――ある、歴史のひと欠片。
 そのとき、確かに。
 一つの歴史が、その産声を上げたのだ。

「シュート!」
「ファイア!」

 魔法使いリリカルアーサー
 2010年11/21、擬人化王国Wにて、発行予定
 著者:皇 琴美
 サークル名:Sparrow's palace
URL:http://excalibur.omiki.com/

 ハッピーエンドの奇跡を、どうか。